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黄金の羅針盤part26-98~99・101 98 :黄金の羅針盤(1/2):2006/10/09(月)01 20 36ID Z3Iv2XbR0 サンフランシスコから横浜へ向かう豪華客船の翔洋丸。 この船の甲板で白骨死体が発見され、船長の鷹取は発見者に緘口令をしくが 発見者の1人、一条菊子によって探偵である藤堂龍之介の元に話が持ち込まれる。 長旅に飽いていた龍之介は早速捜査にあたることに。 当初、船員たちの口は重く、思うように情報は集まらなかった。 しかし事務長の片桐が殺されたことにより、船長から正式に捜査を依頼されることに。 捜査を続けるうち、龍之介はチンピラの賀茂、写真家の青島夫妻、新興宗教の教祖である朝倉親子、 錬金術を研究しているという黒沼教授、翔洋丸を所有する亜細亜汽船のライバル会社、帝都商船の 幹部社員である平賀らと知り合いになる。その中でも龍之介に強い印象を残したのは 薄幸の美人である麻生多加子であった。 片桐は多くの船員から嫌われており、殺される動機には事欠かなかった。彼は計算高い人物で 平賀らと手を組み、帝都商船による亜細亜汽船買収に協力していたらしい。 また捜査を続けていくうちに、自室に引きこもりがちであった青沢キリ子の絞殺死体が発見される。 夫の豊彦はキリ子の実家の資産目当てに結婚したものの、その結婚生活は円満とは言い難く 明らかに疎ましがっているようだった。キリ子殺害の第一容疑者はこの豊彦であったが しっかりとしたアリバイがあり、まだ犯人が誰なのか、龍之介には分からなかった。 白骨死体の正体、片桐、キリ子殺しの犯人を探して捜査を続けていくと、今度は 怪しげな言動で気味悪がられていた朝倉親子の父の方、朝倉元次が射殺されてしまう…。 翔洋丸が横浜にたどり着く直前、龍之介は船長の許可を得て、容疑者たちをロンジに集めて告発する。 99 :黄金の羅針盤(2/2):2006/10/09(月)01 21 25ID Z3Iv2XbR0 最初に口を開いたのは、通信士の織田だった。 彼の父も造船技師として、亜細亜汽船で働いていたのだが、設計した船が海軍に徴発され しかもその船は目的地に着くまでに沈没してしまった。当時、海軍窓口を務めていた片桐が 買収されたことにより、その責任は織田の父が負うことになり、織田の父はナイフで胸をついて自殺した。 成長した織田もやがて亜細亜汽船に入社し、翔洋丸で働くことになる。 父の敵である片桐も同じ船で働いていたが、織田にはもはや復讐するつもりはなかった。 しかし、船長の鷹取から、再び片桐が背信行為を働いていることを知らされ、激怒。 織田は片桐に迫ると言った。「片桐さん、あんたは人間のくず、どうしようもない人間だよ…」 そして父が自殺に使ったナイフを使い、片桐を刺殺したのだった。 次に口を開いたのは麻生多加子だった。 彼女は実家の窮状を救うため、若き富豪の麻生伊作と結婚したが、その夫婦生活は悲惨極まるものであった。 成り上り者の伊作は何事につけ強引で、多加子のことも単なる所有物としかみなしていない。 いつしか多加子は心を病んでいき、ある日、遂に多加子は伊作を銃で撃ってしまう。 死の間際、伊作の告白から、実は彼は本当に多加子を愛しており、愛されたいと思っていたことを知って 多加子は慄然とする。しかし伊作はすでに絶命していた…。 数年後、伊作の元に手紙が届く。「麻生伊作、16年前のお前の罪は翔洋丸にある。罪を償いたければ船に乗れ」 多加子は伊作にかわって罪を償うため、翔洋丸に乗り込んだ。 そして最後、龍之介に白骨死体の話を持ち込んだ一条菊子が真実を語り始めた。 彼女の父は若い男と一緒に金脈をもとめてアメリカに渡った。しかし、金脈を見つけたその日 父は若い男に裏切られ、命を落としてしまう。菊子は復讐を誓ったが、若い男が誰かもわからず 情報を集めながら時を待った。ある日、菊子は青沢豊彦と出会い、探していた男が麻生伊作であることを知る。 その時、既に伊作は殺害されていたが、菊子はそれを知らず、青沢と協力して、父の死体(白骨死体)を 翔洋丸に積み込むと、伊作のもとへ手紙を送り付けた。 全て麻生伊作に、自分の罪を自覚させるための行いだったが、船に乗ってきたのは妻の多加子だった。 やむなく菊子は多加子に復讐をすることにした。 疑いがかからないよう、青沢が疎ましがっていたキリ子と、菊子が殺したかった多加子を交換殺人することにしたが 青沢は煮え切らない。仕方なく菊子は先にキリ子を殺したが、それを朝倉元次に目撃されてしまう。 口封じのために元次を殺そうとする菊子。しかし、その元次の口から、麻生伊作と多加子の間でおきた 出来事を知らされ、自分の復讐が無意味であったことを初めて知る。 そして脅迫してきた元次を、多加子が伊作を撃つのに使った拳銃で撃ち殺した…。 菊子は最後に龍之介に語った。 「藤堂さん、麻生伊作にとって人生の黄金は、カリフォルニアの金鉱で見つけたものでなく 多加子さんのことだったのかもしれない…。 もし人生がこの広い海で、私がそれをいく船ならば、私は羅針盤のない船ね。 広い海をあてもなくさまようだけの…」
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黄金の増やし方 [部分編集] 手段 説明 商会 商会1LvUPで税金徴収率は1%上がり(上限は50%)、獲得できる黄金が多くなります。 住居 住居のレベルが上がるほど、住人は多くなり、徴収する黄金の税金収入は上がります。ただし、失業人口が20%を超えていると民忠が下がり、城の資源産出量は減少します。 貿易学 技能の「貿易学」を昇級することで君主が有するすべての城の黄金収入を増加させることができます。 市場 市場で商人に食糧、木材、鉄材などを黄金と引き換えることができます。市場は1LvUPするごとに販売価格が1%上がります。 討伐 NPCや、他プレイヤーを打ち破ることで彼らの黄金を奪います。他プレイヤーを攻めると恨みを買い、仕返しされることもあります。揉めるのが嫌であればNPCだけにしたほうが良いです。 任務 任務をこなすことで黄金を含む資源が貰えます。 連盟 連盟を作成又は連盟に加入することでも商業税収を増やせます。 とまあ、こうゆうわけでw 何進は略奪学の研究を進めて派兵し任務は全て本城で完成させて、寝る前などに兵士を雇ったあと 資源を全て市場で黄金に変えております^^ 民忠について [部分編集] 民忠が低下すると生産率が低下し、獲得資源が減ってしまいます。 民忠は、食糧を使って「施し」することによって上げることが可能。「施し」のやり方は、民忠の右横にある+をクリック→施し回数を選べば出来ます。 民忠が低下する条件 食糧生産がマイナス(1000以下~かも)になっているとき(最終的に25%まで低下) 失業人口が20%を超えている場合 軍営で兵を召集したとき 他プレイヤーに侵略されたとき 建築物を撤去したとき 住居または御苑を撤去して、労働者がマイナスになっている場合
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(壮年の教官、壇上に立つ) あー、おはよう。 (前半分の生徒から「おはようございますっ!!」という大声。後ろ半分の生徒が驚く) フムン。 実践派の諸君、声を出すのは良いことだ。だが、後ろの諸君をビックリさせてはならんぞ。 あー……後ろの、主に修学派の諸君は、初めて会う顔が多いだろうから、 改めて自己紹介しておこう。 俺が、クラウディオ=ブルンホルンベルグ・アードラーだ。 今月から、こうして教壇に立って、諸君に色々と話をさせてもらうことになった。 俺を呼ぶ時は、先生とか、教官とかでも良いが、「ミスター」と呼ばれるのが俺の好みだ。 出来れば、そうしてほしい。 さて、えぇ……と。この講義では、戦術理論を諸君らに教える、ということになっている。 なっているのだが、実は戦術というものには、 魔術や科学に比べて、確立した理論というものが存在しない。 高度に確立されすぎた理論…えぇ、原則“ドクトリン”と言ったりもするが、 そういう理論には、必ず対抗策が打ち出されるものだ。 特に修学派の諸君、よく聞いておいてほしいのだが、 どんなときにでも通用する術、というものは、戦術には存在しない。 「そんなものは理論じゃない」と思ったか?……フフン、その通りだ。 よってこの時間には、理論以前の、非常に基本的な話を主にすることになる。 それ以上の事については、残念ながら実習やその他の場面で、 身体で覚えてもらうしか無いな。 ……まぁ、これでも一応、修学派の諸君には、済まないと思っているんだぞ? お詫びと言っては何だが、俺の実体験を話すことで、 具体的理論の紹介に代えるつもりなので、楽しみにしていてほしい。 さて、それでは………戦術とは、果たしてなんだろうか? おい、そこのお前。戦術って何だと思う? (指された最前列の赤髪の男、「はい!敵を倒す方法です!」と答える) フムン。 バカめ、と言っておいてやろう。 こないだの格闘訓練が足らんかったようだな、えぇ? 次の戦技の時間を楽しみにしているがいい。お前の身体にみっちり戦術を叩き込んでやる。 まぁ、とは言ったものの、半分ぐらいは当たりだ。 人によっては、これを戦術だという場合もある。 だが俺の考える戦術とは、まぁ簡単に言えば、生き残るための技術、ってとこだ。 いくら相手を痛めつけたところで、自分がそれ以上に痛めつけられたら、 その戦いは負けたことになる。 自分の持つ戦力を、如何に効率良く使い、目的の達成に近付くか。 それが戦術の理論、戦いの極意というやつだな。 ひとつ、具体的な話をしよう。 昔のことだが、非常によく訓練された重装歩兵の部隊がいた。 野戦や市街戦では無類の強さを誇り、まさに連戦連勝というやつだ。 常勝と言われた軍だった。 ある時、敵の軍勢を大いに追い散らした彼らは、 大将首が逃げ込んだ城塞を包囲し、攻城戦へと移った。 勢いに乗る部隊は、手に手に梯子や破城槌を持ち、城壁、城門へと殺到したわけだ。 さてその時、敵軍はどうしたか。……じゃあ、お前がその敵軍の司令官なら、どうする? (指された若者、少し考えた後、 「弓を射掛けたり、石を落としたり、城壁の上から敵を叩きます」と答える) うん、まぁ半分ぐらいは合ってるな。 次は……そうだな、後ろの、その青い帽子の君、どうだ? (眼鏡の少女、指された事に驚き、周りをキョロキョロ見ながら 「えぇっと、鋭網陣“ブレード・ネット”とか、龍星群“ドラゴン・メテオ”とか、 広範囲に影響のある魔術が有効だと思います」と答える) ありがとう、残り半分の正解だ。 つまりだな……敵将は地の利を活かして戦った、という風に言える。 実際には、城壁の高所から攻撃できる優位性をもって時間を稼ぎ、 その間に儀式魔術を執行して、敵に打撃を与えたわけだな。 それに対して、重装歩兵たちはどうだったか。 梯子や破城槌を使うために、彼らは大盾を手放した状態で、城壁に向かったんだ。 胸甲を外した者までいたとも聞く。無敵の重装歩兵が、聞いて呆れるだろう? 彼らは自らの戦術的利点、戦術的優位性を手放し、相手に足止めされやすい状態に陥った。 その結果、儀式魔術の餌食となってしまった、ということだ。 この話から得るべき教訓は、自分の長所を活かし、相手の長所を挫くべし、ということだ。 つまり、自分の得意な分野で相手を圧倒して、 相手に好き勝手をさせずに、如何に自分のわがままを通すか。 そのための様々な手段のことを、俺は戦術と呼んでいる。 ちなみに余談だが、自分の長所を伸ばし、得意な分野を作り出すことを、戦略という。 このへんの話は、ハインリッヒ・ボルネフェルト師の「政戦略論」で主に扱ってるから、 興味のある者は聴講に行ってくれ。 さて……えぇ、あとどれくらいだ? 10分程余ったな。講義が戦術的でなかった、ということか?フムン。 そうだな……。 諸君、何か質問はあるか?講義に関することでも、俺のことでも構わないぞ。 えぇと、それじゃあ君。 (指された色白の男、「ミスター・アードラーの左手についてなんですが…」と言いかける) ん?これか? これはなぁ……昔、天から舞い降りた一人の美しい戦乙女がだな、 俺の勇猛さに惚れ込んぢまったわけだ。な? で、一緒に天界で暮らそうって誘われたんだが、 あいにく傭兵の身の悲しさよ、契約期間が残ってたのさ。 君のところには行けないよ、と丁重に断ったんだが、相手はどうにも俺を諦めきれなかった。 そこで俺の代わりに、俺のたくましい左のコブシを切り取って、 天に持って帰ったって、こういう話よ。 どうだい………不満か? ……まぁ、嘘ついたってしょうがねェからな。まぁ…アレだ。実際は面白くもない話だよ。 敵にとっつかまって、拷問されて、その時にブッ千切られたんだよ。 俺の居た傭兵団は、本隊の意図を隠すための陽動行動中で、 作戦スケジュールやその時々の位置は、重要度の高い情報だったわけだな。 そいつを俺から聞き出すために、散々痛めつけられたのさ。 で、結局俺は何もかも喋っちまった。 本隊の編成や行軍予定、陽動部隊の戦略目的とか、色々とな。 そりゃあそうだろうよ。コブシ引っこ抜かれて前後不覚になってみろ、 思考探知“マインド・ダイブ”なんか絶対に抵抗“レジスト”出来んからな。 だが実際、俺が捕虜になった時点でウチの団長は、 俺から情報が漏れることは承知してたんだ。 そしてそれを逆手にとって、本隊を陽動役にして、 ブルンホルンベルグ傭兵団が敵軍の本営を奇襲した。 俺の喋った話と全然違うことをやった、ってわけだ。 相手に主導権を取ったと錯覚させ、逆に自分が戦場を支配するという、 非常に戦術的な………んん?もう時間か。 というわけだ。講義の続きは、来週のこの時間に。 次回は我が虹剣兵団の編成を例にとって、具体的な戦術について話す。 それから、戦技のクラスを取ってる生徒は、 完全装備でのランニングを日に3セット、欠かさず行うこと。 あと、ダンジョン探索演習の参加希望者は、研究室まで申請に来てくれ。 定員10名で、希望者が多ければ抽選となる。 それでは諸君、また会おう。 (教官、壇上から退場)
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セルクル 今日も今日とて、自称愛の奴隷であるところの金髪の吸血鬼は、塔から思い切り放り出されて、一端ばらばらになった。 軽くトラウマを刻んでしまいそうな光景であるが、幸いなことに人のいないあたりに落ちたために目撃者は出ずに済んだ。 中央広場にクレーターと赤黒い染みを広げた男は、けれど暫くするとやっぱりなんでもないように起き上がる。 「……やあ。今日もまた派手に吹き飛ばしてくれたねえ、彼女は」 小さく苦笑の息を乗せて立ち上がり、マントの埃を払った身体にはもう傷は跡形もない。 「やあ、ここは中央広場か……よかった。思ったより近かっ、……っ!?」 鷹揚に眼鏡──なぜか無傷だ─のズレなど治していた男だったが、位置を把握すると珍しく慌てたような顔になった。 慌てて辺りを見回し、自分の落下地点に状態復元の魔術をかけ─何も巻き込んでいなかったことに心から安堵する。 「……よかった。街妖精が育てているという植物を、巻き込んだりしていなくて」 少し離れた所に小さな芽の姿を見つけ、セルクルは穏やかに微笑んだ。愛しい少女が絡まなければ──基本的にまっとうで善良な男である。 「そうだ、もしもがあってはいけないからね! あらかじめ、周りに結界を張っておこう! ──『万難排せよ風と空 万象反らせ水と土 何者も幼子の夢妨げる事能わず』」 ぽんと手を叩いた後、良いことを思いついた、という顔で吸血鬼が新芽の周りに張り巡らせた術式は、火以外の五大属性を織り交ぜた──無駄に手の込んだ魔術結界であった。 敵意、悪意に反応し、またそうでなくとも芽が潰されるかもしれない危機に反応して弾く反射型の結界だ。 「これでよし、と。さて、塔に戻らなくては──待っていてくれ! いとしのソルティレエエエエエジュ! ──『此方より記録されし彼方へと 光の疾さで我が身を運べ 虚空の回廊』!」 満足そうに頷いた後──意気込んで叫ぶセルクルは、やっぱりどこまでも残念な吸血鬼である。 その姿は"指定転移(ワープポータル)"の魔術で直ぐにその場から掻き消えた。 アエマ 水やったよー。終わりー。 ……え? 駄目? なんだよー。たくさん書こうが、あっさりと書こうが一緒じゃんかよーう。 ところでこれ、水分ならなんでもいいの? ポーションとかかけちゃ駄目? ……えー、やっぱ駄目? 普通に育てたって、つまんねーよー。毎日水だけって、こいつだって飽きるよ、きっと。あたいなら飽きるし。 食わず嫌い駄目だって。いろんなものに挑戦しないと。でっかくなれねーぜ? よーし。おまけだ、こいつも飲みねぇ。 まるで水のように見える無色透明無味無臭の何かー。 ――“じゃばじゃばー”。 ――“だっぱだぱー“ よーし。 これでお前もでっかくなるだろー。 いやー、いいことしたら気持ちいいなー。 ――“きーんこーんかーんこーん” ぬうぉー!? やっぶぅえー!! 授業に遅れるー!? っちゅーか絶賛、遅れてるナウー!! 走れあたし! 風になーれーぇぇぇっ!! デュール 「この植物は食用になりますね」 何処からか飛来した無数の攻撃に、周囲の住人達が驚愕の視線を向けるも、煙を上げる煤けた指先が、若芽に軽く触れる。 「これは失礼致しました。意志をお持ちでしたか。小生、感知機能に未だ破損が有ります故」 骸骨もどきが座り込んで植物と会話している様は、書き間違った童話でも無いだろう光景で、広場に奇妙な人避けの結界が生じていた。 「…土中の成分に生命力異常が見受けられます。鉱物元素調整。活性珪素注入」 外套の如き体から生じた針が土中に打ち込まれると、何かがそこから染み渡っていく。 魔力を有する者の中には、微かなざわめきに首を傾げる者も居た。 「完了」 振り返った怪物は、恐る恐る近寄ってきていた兄妹が引っ繰り返りそうになるのを、両腕を2mほど伸ばして支え止めた。 「これは失礼。植物の世話に参られた市民の方でありますね。小生も微力ながら、お手伝いさせて頂きました。良い花が咲く事を願う次第であります」 目を白黒させる子供を地面に降ろすと、デュールはいつもの最敬礼をして、その場を後にした。 ミヒャエル 「色んな奴らと色んな所で縁が絡まってるなお前」 水をやりながらミヒャエルはアチコチに伸びている縁の糸を見て、呟いた。 「まあ本来はそうなんだよな。縁を結ぶのに他人の手なんざ借りる必要なんか無いんだよ。お前はエライ!」 びしっと指をさし、ミヒャエルは続けた。 「しかも、随分と良縁が多いな。恋だのなんだの…めんどくせーことに頭悩ませないでいいってのは幸せなことなのかもな」 そこまで言い、言葉を切る。 慌ててミヒャエルは辺りを見回した。 「管理局で今の聞いてないだろうな…。やべー。上が耳にしたら始末書&減俸だぜ。今のは俺たちだけの秘密だぜ。頼むな!」 ミヒャエルは片目を瞑り、微笑んだ。
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※戦闘ガッツリですので多少流血描写とかはいります。 終わりの見えない闘争というのは、どれ程人の心を打ちのめすか。絶望的な戦場を幾度も経験してきた身であっても、改めて実感せざるを得ない。 開幕からどれだけの時間がたち、どれだけのレッサーどもを刈り取ったか。斃した悪魔の数が二十を超えた辺りで数えるのを止めた。異界の底、瘴気のある限り無限に湧き出すという下位悪魔どもは、数の尽きる気配を見せようとしない。 今回開かれた"災厄門(ハザードゲート)"を仕掛けた者は余程の攻撃的な思考の持ち主か、根性曲がりか。あるいは世界そのものでも憎かったのだろうか。何にしろ友人にはなれそうもない。 前衛を勤める──大剣を携えたブルーノと片手斧二つを器用に扱うゾランは、レッサーデーモンをそれぞれ二体ずつ引き受けてくれていたが、更に結界を抜けてきた新手の一体までは留めきれない。 先刻から、前衛が傷つく度に治癒法術をかけて強引に継戦させ、支援法術をかける合間を見繕っては呪弾で援護射撃を行う自分──ヴァレーリヤが鬱陶しかったのだろう、此方に狙いを定めデーモンは素早く突進。同時に平行して攻撃用の術式を展開している。化け物め。 「そこまで、ですわ!」 「俺っちたちの相手が先だぜ、デーモンさんよお!?」 中衛の術剣士ハリエッタと槍使いクレシュが、後衛の自分たちに迫る悪魔の進路に割り込み、足を止めてくれる。"詠唱妨害(スペル・インタラプト)"を載せた魔法剣が構成中の術式を引き裂き、迅雷の如き刺突がデーモンの脚を穿つ。 「──散開しろ!」 二人の連携の隙を縫うようにして呼びかけ、中衛二名が左右に分かれて飛び退いたのと同時、レッサーデーモン目掛けて発砲。少し狙いが甘かった。デーモンの頭を穿つつもりだったが、弾丸は頑健な右肩にめり込むに留まる。 だが、その位置に弾が埋まってくれれば十分だ。着弾の瞬間、呪弾に封じられていた法術"神聖光撃(ディバインストライク)"が開放され、殺傷能力を伴った聖なる銀光が爆ぜる。 爆音と閃光が去った後、肩口から胸までごっそりと抉り取られたデーモンは、悲鳴もなくその場に倒れこみ──端から現界する力を喪い、屍骸も残さず消えていく。 弾倉から役目を終えた空薬莢が吐き出されて地面に転がるのと同時、また新たなレッサーデーモンが結界を越えた。物も言わず、ハリエッタとクレシュは目配せをしあい、増援を討ち取りに駆ける。 戦闘継続中のブルーノとゾランの武器に、何度目かの"法力付与(ホーリィウエポン)"をかけ直しながら、自分は小さく舌打ちした。 ──さっきので最後の呪弾が尽きた。 最早只の金属塊に過ぎなくなった魔法銃を仕舞い、代わりに銀剣を引き抜く。此処からは援護射撃を行うことは出来ない。またひとつ不利になった。 5人1組に別れ、それぞれが円の半周ずつを担当する形で対デーモンの戦線を維持しているが、対面で戦闘中の副長以下五人に、こちらを援護するような余裕は当然ながらない。 ここからは純然たる法術支援に集中したほうがよさそうだ。法力の使い過ぎで痛みだした頭を叱咤して、ウエストポーチから取り出した精神回復の霊薬瓶の蓋を口だけで外すと一気に煽る。 独特の薬くさい甘みと強い酒精のように咽喉を灼く感覚は好きではないが、四の五の言っている暇はない。 距離をとり、魔術詠唱を始めたハリエッタの少女らしい細身に迫るデーモンの毒したたる爪を、即座に組み上げた"瞬間防壁(イージー・プロテクション)"で僅かなりと逸らし、回避できる隙を作る。 後ろに数歩下がった術剣士に追いすがろうとしたレッサーの腹部を、クレシュの槍が貫き──その背後から迫っていた別のデーモンを、完成したハリエッタの魔術"閃雷(サンダーボルト)"が轟音を伴って打ち据える。 今のところは連携でデーモンどもを翻弄し、どうにか持たせているが、消耗を考えれば、こんなことがずっと続けられるわけではない。 まだか。まだなのか。焦燥が胸を焦がす。 その間にも翼で舞い上がって上を抜けようとした間抜けなレッサーの一体が、副長である"精霊使い(エレメンタラー)"──精霊魔術と召喚魔術の複合体系の使い手だ──レダが最初に呼んで、天井側に控えさせていた大量の"風霊(シルフ)"らの巻き起こす突風に引きちぎられ、地面に叩き落されて消滅する。 地下である遺跡の中だが、不思議と空気の流れがあり、風霊たちも狂わずに此処に居られるらしい。レダは上位精霊を呼ぶほどの素養はないが、その分下位精霊に気に入られやすい霊質の持ち主らしく、一度に多くの精霊を導引することを得意とする。今も、"火霊(サラマンダー)"を数体、交代で砲台代わりに働いて貰うことで、対面側の戦線維持の一翼を担っていた。 おかげで火力は十分だが、その分欠点もある。あちらの組の法術使いはあまり大きな治癒術式を使うことには得意ではない。前衛に直しきれない傷と疲労が溜まっているのは、こちらから窺うだけでも解かった。 ちらりとデーモンと死闘を繰り広げるこちら側の部下たちを見やる。あちらに回復を跳ばす間くらいは持たせてくれる──筈だ。 迷う間も惜しい。 「『天にまします"剣の産み手"──』」 法術に限らず、高位術式の詠唱はどうしても長くなる。世の中には工程省略で大奇跡を降ろすような、そんな規格外の聖職者も居ると聞くが、生憎自分は其処まで神の寵愛を賜る所には居ない。 もどかしいが、声を張り上げて加護を希うほかないのだ。 「『勇者の勲し、讃え賜らん。祝福せよ、我ら弱きの為に剣を振るう者──志半ば戦場に剣を折らぬよう。労りあれ──』」 広範囲を一時に治療する治癒法術。これをかけてやればもう暫く、あちらは戦線を維持できるだろう。あと少しと詠唱完成を急いでいた自分だったが──唐突に響いた苦痛の絶叫に、一瞬目を見開いた。 何体目かのデーモンを切り伏せたゾランの身体が、突然"見えない何かに切り裂かれたように"あちこちに裂傷を刻まれて倒れるのが見える。 レッサーが何か術を使ったのか!? 自分には把握できなかったが、この乱戦だ。そういうこともあるのかもしれないと、仕方なく詠唱中の術式を強引に組み替えて、ゾランの治癒に回そうと── 「分隊長! 下がって! "不可視化(インヴィジリティ)"の術式が使用されている! "中位悪魔(ミドルデーモン)"です!!」 探査術の使い手である補佐官ミーネフェルトの悲鳴じみた警告の声が聞こえた。瞬間、自分は咄嗟に詠唱を破棄して飛び下がろうとしたが、僅かに遅い。 右横合いから脇腹に熱と衝撃。堪らず大きく弾き飛ばされ──倒れこんだ自分の視界に、揺らめく陽炎を纏った、非人間的な青い肌と金属色の長い髪をした妙齢の女。ねじくれた黒巻き角に、肘から先が黒い鋭利な刃物と化した異形の腕を持ち、最低限の部位だけを艶やかな黒革が覆い扇情的な体のラインを強調している。レッサーデーモンよりも一見小さく細く見えるが、伝わってくる瘴気や迫力は比ではない。白目のない、黒い瞳が──残酷な喜悦を孕んで嗤っていたが、表面だけをなぞったような空々しさだ。 多少の差異はあれある程度画一的な見た目と性能のレッサーデーモンらとは異なり、ミドルデーモンクラスになると悪魔らは途端に個性を帯び、多様な姿、多様な力を発揮するようになる。固有の名前や称号を持ち、顕現すれば地方都市くらいなら軽々と焼き払うという"上位悪魔(グレーターデーモン)"とは比べるべくもないが、それでも多少実践慣れした程度の冒険者ならダース単位でかかっても相手にならない。レッサーデーモンとは一線を画する、中位悪魔とはそういう存在だ。 自分は歯噛みするのを止められなかった。恐れていた事態の一歩手前まで来ているようだ。ミドルデーモンの出現は開いたまま"門(ゲート)"に、異界の住人が気づいたということに他ならない。 「アラ──避ケタ? 近頃ノ人間ハ、ズイブン頑丈ナノネ」 甲高い女の声は、刃を擦り合わせて声を作ったように不自然で耳障りだ。どうにか起き上がり、銀剣を構えるが、エンチャントで守られた防具を切り裂いて右脇腹をざっくりとやられていた。 「勇猛ダコト。アナタノ魂、オイシソウダワ。わたしト契約スルナラ貴方ダケ助ケテアゲマショウカ?」 「こちとら腐っても聖職者でね。手前みたいな安い悪魔の甘言を聞く耳は、ねえ!」 腹部の痛みに耐えながら銀剣を投擲。ミドルデーモンは軽く身体を動かして交わすと、亀裂のような笑みを深める。 「残念ダワ。ソレニシテモ、イイノカシラ? わたしニバカリカカズラッテ? オ仲間ガ大変ナコトニナッテイルワヨ」 「……ッ!」 嘲笑と共に女悪魔が広げた腕の向こう、崩壊した戦線に息を呑む。そうだ。先ず最初に倒れたのは前衛の片翼だったゾラン。 相方であるブルーノは、ゾランの分のデーモンも引き受ける形になり、壁際に追い詰められている。 「ハリエッタ! おい、確りしろ! てめえらあああっ! こいつに近づくんじゃねえ!!」 泣き出しそうなクレシュの声。血溜りの中に声無く横たわりか細い息を繰り返すハリエッタの腹部からはどくどくと止め処なく血があふれ出していた。少女剣士をデーモンたちから必死にかばいながら、奮戦する槍使いの身体もあちこちに傷が刻まれ、赤黒く染まっている。当然ながら対方は此方の窮状に気づいていても、回せるほどの余力がない。これ以上此方にデーモンが回らぬように、自分たちの側のレッサーどもを片付けるので手一杯だ。 ゾランやハリエッタの傷を癒すべく、どうにか治癒魔法を組み上げようとするが、それを見逃すミドルデーモンではない。 「駄ァ目。貴方シわたしト遊ビマショウ?」 避ける間も与えず突き出された剣腕が嬲るように、自分の脇腹の傷を更にえぐる。実際弄んでいるのだろう。 ミドルデーモンからすれば、傷を負って動きの鈍った自分など、子供が玩具の手足をもぐより容易く、どうにかしてしまえるはずだ。 副官たちが必死に戦って、此方の援護に入ろうともがいているのがひどく申し訳ない。お前たちも手いっぱいだろうに! 「く、そ……っ!」 かくなる上はウエストポーチに仕込んである、複数の炎霊石を同時に起爆させて巻き込む特攻戦術くらいしか有効手を思いつけない。 即効でデーモンをどうこうできるような素早く強力な攻撃術式を、自分は修めては居ないのだ。 リュドミラ、アントン──脳裏をよぎったのは最愛の娘と息子の顔。少なくとも、こんな嗜虐心に満ち満ちた怪物を市街に解き放つわけには行かない。 勝ち誇った笑みを浮かべて刃を振り上げたミドルデーモンを睨みつけ、覚悟を決めて自分が腰後ろのポーチに手を回しかけたその時── 「…………エ?」 笑みを愉しげに刻んだまま──女デーモンの上半身が、"ずれた"。 遅れて耳に届く風切りの音。青黒い鮮血を吹き上げて、腰のところで二つに断ち割られた中位悪魔は崩れ落ちた。
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少女は帰っていった。 彼女は、はにかむように笑い、頭を下げると出ていった。 彼女を見送りながら、ユキエルは小さな声でミヒャエルに言った。 「アンタ、あの時『結んだ』でしょ?」 「ありゃ、バレたか?」 小さく舌を出し、ミヒャエル。 まるで悪戯を見つかった子供だ。 「わかるわよ、明らかにマッシグさん途中から感情の起伏に違和感あったし。アンタのフォローもおかしかったしね。ああいうのをオン・オフの差が激しいとは言わない」 「鋭いね!さっすがはマミマミだなぁ!」 軽い調子で言うミヒャエル。 彼の言葉にユキエルは軽く眉を顰める。 「その呼び方いい加減に止めてくんない?」 「いーじゃん、かわいーじゃん!」 「だから、イヤなのよ」 楽しそうに言うミヒャエルにユキエルは苦い顔をした。 これでも彼女は天界では慈愛神の信頼厚く、またかなり厳しい管理職として名が通っている。 周りの天使たちは男勝りな彼女を尊敬と畏怖をこめ『ボス』と呼んでいるくらいだ。 だが、彼だけは違う。 彼は昔から仲の良い女性に妙なニックネームをつけて、それを普通に使うくせがあり、それは彼女とて例外ではなかった。 彼にしてみれば、おそらく親愛の表れなのだろうが、相手の立場関係無しで使うのが困りものだ。 例えばイットーの後を継いだ現法王メイサはメイメイだし、慈愛神アガ・ぺーですら彼にかかってはアーちゃん呼ばわりである。 おかげで彼と話していると周囲に示しがつかなくて困る。 不思議なのはメイサにしても、アガ・ぺーにしても、普通にその呼び名を受け入れているところだ。 これも彼の人徳と言うべきだろうか? ともあれ。 彼女はミヒャエルを見て、言葉を続けた。 「相変わらず鮮やかな手並みね。腕は衰えてないじゃない」 「誉めても何も出ないぞ。まあ、チューくらいならしたるけど」 「いらんわ!」 ふざけるミヒャエルに思わずユキエルは突っ込んだ。 しかし、彼の手際に舌を巻いていたのは本当だった。 普段はふざけてばかりで、あまり仕事をしない彼だが、その技量はさすがの一言に尽きる。 先程でも、たまたま険悪な様子を不安に思い、少女にマッシグが何かしようとしたら、しばいたろと彼らの様子を注意していたから気づいたに過ぎない。 信じがたい位に見事な手並みだった。 彼はマッシグとイットーが話している時に少女をユキエルの側に促した。 その時、彼は彼女の小指から縁の糸を引き出した。 続いて、マッシグの手から硬貨をひったくった際に糸を引き出した。 そして、彼を説き伏せ、心が揺れ動いた絶妙のタイミングで手早く結んだのだ。 実に自然な動きだった。 恐らく、当人たちも縁を結ばれたことに気づきすらしなかっただろう。 ユキエルはこれみよがしにため息をついた。 「完全に宝の持ち腐れよね」 「何だよ急に?」 怪訝な顔をするミヒャエルに彼女は言う。 「ちゃんと働けばバリバリ出世できるのにって言ってんの」 「残念!興味ねーっす」 「言うと思った」 ミヒャエルの言葉にユキエルは苦笑する。 そして、訊ねた。 「じゃあ、その出世に興味もなくて、仕事もろくにしないミヒャエルさんが何で今回は二人の縁を結んだの?」 「あの場を納めるにはアレが一番だと思ったんだよ」 「へえ?」 「マッシグだって、根は悪い奴じゃないからな。教義にガチガチに縛られてたからアレだったけど、少し違った見方ができれば歩み寄れると思ったんだ。だから、すっと情結び」 言うとミヒャエルは紐を結ぶ仕草をした。 「あら、恋結びじゃないの?」 意外とでも言うようにユキエル。 彼は憮然とした顔で答えた。 「俺は天使の力で無理やり恋のキッカケを作るのは嫌いだ。第一、あの二人はそんなカンジじゃないだろ?」 「それもそっか」 気楽なカンジでユキエルは笑った。 ちなみ先程彼らが話していた『情結び』『恋結び』と言うのは縁の糸の結び方である。 縁の糸は、その結び方によって、効果が異なる。 たとえば情結びならば、情が湧く。 恋結びならば胸がときめくと言った具合である。 勿論、縁を結んだと言っても、効果はそう強いものではない。 彼らが作れるのはあくまでもキッカケに過ぎない。 最終的にどのような縁を強く結ぶかは当人たちの意志なのである。 「それにああ見えてマッシグの奴、面倒見いいからな。司祭と仲良くなれば、あの娘にとっても悪くはないかなって。別に好んであの仕事してる風でもなかったし」 「そうね。なかなか可愛いコだったし?」 「可愛いだけじゃないよ。なかなか肝も据わってる」 「うを、どこから湧いたイットー!」 突然会話に割り込んできたイットーにミヒャエルが驚く。 イットーはそんな天使に苦笑する。 「さっきからいましたよ。酷いなあ…」 「「マジで?」」 思わずハモる二人。 イットーは二人を見ると言った。 「仲良いね、キミたち。あんまり仲良すぎるとマッシグが拗ねちゃうよ?」 「マッシグさん?なんで?」 きょとんとした顔のユキエル。 まったくマッシグの気持ちには気づいていないようだ。 対してミヒャエルの方はピンときたらしい。 眉間に深い皺を作り、難しい顔でイットーに近付くとヒソヒソと訊ねた。 「それ、マジ?」 「ホントホント。ボクもビックリしたんだけど、どうやらそうみたいよ」 「よりによってマミマミかあ」 彼の言葉に天使はなんとも言えない顔をする。 「大変だぞ~」 「だろうね」 イットーも同じような顔で頷いた。 「仮にうまく行っても苦労するだけだと思うんだけどね」 「アイツ、マゾじゃねーの?」 「どうだろ。確かに苦労を自分から背負い込むところはあるけど」 深刻な顔で黙り込む二人。 そこでさっきからコソコソ話してる彼らを怪訝な顔で見つつユキエルが訊ねる。 「何の話?」 「あ?まー、そうだな。恋はめんどくさいて話だ」 「ふーん?」 適当なミヒャエルの言葉にユキエルは微妙な顔をしたが、あえて突っ込んできたりはしなかった。 内心、ほっとしながら、ミヒャエルは脱線したに話を戻す。 「で、あのコが何だって?」 「うん。話を聞いたら、結構苦労してるみたいなのね」 そう切り出すとイットーは彼女から聞いた身の上話を語り出した。 彼女も最初は普通の商家に勤めてたらしい。 だが、店が倒産。 しかも、母親が病気にかかり、治療費と薬代に今までに貯めた蓄えも消えていった。 そして、とうとう手持ちの金も底をつき、切羽詰まった彼女は身を売る決心をした。 だが、娼婦の世界のことなど、彼女に分かるはずもない。 どう身を売ればいいか分からずうろうろしてる所を宿から外を眺めていたイットーが見つけ、彼女を部屋に呼んだ。 事の次第を聞き、イットーはいたく同情した。 そして、マッシグが帰ってきたら、その薬代を出させようと言った。 だが、彼女はそれを断った。 私は物乞いではありません。 何もせず、お金をいただくわけにはいきません。 彼女はそう言ってきかない。 話相手になってくれただけで十分だよと言うイットーにも、頑として譲らない。 それでは私の気がすみません。 さあ、私を抱いて下さい。 初めてですが大丈夫! そう言って聞かない。 しかたなく、イットーは…。 「ちょ、ちょい待ち!彼女、初めてだって言ったか?」 「うん。処女だったよ。だから、最初は苦労したんだ、痛くないようにゆっくりとね・・・」 「その初めてじゃねぇよ!何で俺がお前破瓜さした瞬間に食いつかなくっちゃんらねぇんだ。仕事の事だよ、仕事の!」 「あ、そっち?うん。確か、そう言ってたよ」 「しかも、その流れだとどこの店やグループにも属してないよな?」 「多分」 「マズいな…」 眉をしかめ、ミヒャエルは言う。 「ソレ、場合によっちゃ、あのコがここらで仕事してる連中の縄張り荒らしたて事になるんじゃねーか?」 「どういうこと?」 「だから、そーゆー商売て、縄張りが決まってたりするだろ?彼女がフラフラしてて、イットーが部屋まで呼んだ。で、お楽しみのとこをマッシグが部屋に乗り込み、彼女は逃げた。ここまではマシだ。ちと苦しいが、席を外した好きに浮気相手といちゃついてた上司に業を煮やした部下がブチ切れ、悶着を起こし、彼女は逃げたと言い訳できんことはないだろ。それにここで金は支払われてなかったから売春は成立してないしな。だが、しばらくして彼女は戻ってきて、金を受け取り、帰った」 「そこで売春が成立した。つまり、縄張りを荒らしたとなるわけね?」 「じゃぁ、金を払えといったミヒャエルのせい?」 「確かに事情を知らなかったとは言え、俺にも責任の一旦はあるな」 苦い顔でミヒャエルは頷く。 「だが、問題はむしろ俺よか…」 「大声で何度も何度もご丁寧に彼女を娼婦娼婦と叫んだ馬鹿野郎がいたことね」 「そう。それで彼女は娼婦だってのが辺りに聞こえまくった訳だからな」 ゆーっくりと一同の視線がマッシグに向く。 「ん?」 一同に見つめられ、キョトンとしたマッシグ。 状況を理解して無いと見える。 まあ、司祭と暗殺一直線な彼に娼婦の縄張り云々なんて話が分かろうはずも無い。 一同深いため息。 「ノンビリしてる場合じゃねーぞ」 とりあえずミヒャエルは三角座り状態のマッシグを軽く蹴った。 「な、何だ!?」 慌てて立ち上がるマッシグ。 「いいから!」 ミヒャエルは彼の手を素早く掴むと小指に触れた。 訳の分からないマッシグは悲鳴を上げる。 「なぜ、俺の手を握る!気持ち悪いから離せ!」 「うるへー。俺だって好きでしてんじゃねーよ」 言うや、彼はすっとマッシグの指から手を離した。 すると彼の手に引っ張られるようにマッシグの指からするすると赤い糸が伸びてくる。 「うわ、俺の手からへんなものが!何をした?」 「いちいちうるせーなあ。何をする何をするって、しつこいから分かり易いようにお前の目にも見えるようにしてやったんだよ」 「だから、何を?」 疑問の声を上げるマッシグ。 それにはイットーが答えた。 「ソレ、縁の糸だね」 「ピンポーン♪」 「これが俺の縁の糸だと?お前、これで一体何するつも…」 「悪いが時間が無いんでちゃっちゃ説明するぞ。質問は無しだ。さっきのねーちゃんがトラブルに巻き込まれる可能性がある。ぶん殴られるくらいで済めばいいけど場合によっては最悪の事態も考えられる。だから、俺たちはそれを阻止するために急いで彼女を追いかける。で、彼女の居場所を知るのにお前から彼女に繋がってるこの糸を手繰る。OK?」 「お、OK」 矢継ぎ早に飛び出す言葉。 凄まじい剣幕の天使に押される形でマッシグは頷いた。 「なら、いい。じゃあ、急ぐぞ」 「う、うむ」 とは言ったものの、マッシグには何がなにやらといったカンジであった。 彼に理解できたのは、先ほどの少女に危機が迫っているというのと、切迫した状況であるということだけだ。 まあ、なんにしても彼にしてみれば、それだけで十分と言えば十分だ。 「詳しいことは分からんが荒事なら任せろ!」 剣の柄に手をかけ、力強くいうマッシグ。 「アホか!」 ミヒャエルはそんな彼の頭をはたくと、呆れ顔で言った。 「非は完全にこっちにあるんだから、なるべく穏便に済ませたいの俺たちは」 「そうなのか?」 「あー、もー、めんどくせーな!」 ミヒャエルはイライラして叫ぶ。 そんな時。 ゴッ。 唐突にそんな音がした。 そして、同時にマッシグが白目を剥き、崩れ落ちる。 「彼が気絶してても糸は手繰れるでしょ?」 倒れた彼の背後にはユキエル。 手には部屋に備え付けの燭台が握られていた。 どうやら業を煮やし、この燭台で物理的にマッシグを黙らせたらしい。 「彼女が部屋を出てからそれなりに経ってる。もしも、制裁をくわえるつもりで待ち伏せしてる連中がいたら、遊んでる時間は無い。急いで!」 「を、をう!」 ユキエルに促され、ミヒャエルは糸を手繰った。 糸を手繰る。 これは天界用語で縁の糸の結び先の相手の居場所を探る縁結びの天使の能力の一つである。 本来は縁結びの相手を見つける為に、強い結び付きの相手を探すのに用いる技であるが、今回はこれを単純に人捜しに応用したのだ。 かつて、イットーに頼まれ、メイサと結び付きのあるユキエルを捜し出したように。 彼は糸を手にすると小さく呪文を呟いた。 刹那、糸が淡い光を放ち、同時に彼の頭の中に早送り映像のように街の風景が流れてくる。 これは彼らがいる現在地から糸の結び先である少女の居場所までの道筋を文字通り辿っているのである。 「見えた!」 やがて、糸の結び先の相手の居場所が彼の脳裏に浮かんだ。 彼はやや苦々しい顔で言う。 「表通りから随分離れてる…。どうやら路地裏に連れ込まれたみたいだな」 「急がないとヤバいわね」 「ああ。行くぞ!」 彼の言葉にユキエルは頷く。 「ところでマッシグはどうするの?」 「そこに置いとけ!」 昏倒してる司祭を指差し、訪ねるイットーにミヒャエルは短く言い放つと走り出した。
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※ コラボがうれしかったので、ほんのちらっとですがキュルクィリィさんお借りしました。苦情はつけつけます!>晋さん ※ 一番最後はフィロのごほうびタイムというかなんというか。 「安心しろ。峰打ちだ」 容赦なく骨を叩き折りはしたが──殺しては、いない。一応、手加減している。 《さっきのは冗談よ 戯れよ 殺しはしないわ? しないわ? 私たちが 怒られてしまうわ それはそれは 悲しいわ》 《賊、皇子の慈悲と 誰も殺めていなかった己の幸運に感謝するのだな》 "黒帳"の言うとおりだ。この者らはまだしも幸運だったのだ。この賊どもと交戦した2番隊からは、幸い死者は出ていない。 もしもこやつらが、『特区』の民を一人でも殺していたならば、そっ首叩き切って墓前に供えるか、四肢を断って死者の家族の応報の助けとするか。 いずれにしろ生きてこの地から返すつもりは無かったが、どれ程恥知らずの愚か者であろうと、過剰な防衛は復讐の輪廻を招く。それは出来るだけ避けるべきことだ。 「……もう聞こえてはおらぬか」 三つ数える程度の時間で斃れる羽目になった男どもには、起きた出来事も、その後かけた私たちの声も現実として認識できなかったかも知れぬ。 重量ある剣を手にしていると思えぬ異様な身軽さ。体重からは考えられぬ威力の蹴り。羽のように振るわれる剣からは信じられぬ重い一撃。 これら全てが"黒帳"の特性に拠るもの。"黒帳"は重さと物や力の向きを自在に操作する魔剣なのだ。 先刻射掛けられた矢を反射したのもこの特性。力の方向を操り、防いだ。力の及ぶ範囲を広げれば、向けられた攻撃を自在に曲げる結界をも構築できる。 もっとも、他の動作と同時には防御を展開できぬという欠点はあるゆえ、万能という訳ではないが。 「さて、後は事後処理を済ますのみ……」 まだ意識のある者もいるようだが、動くことが出来なければそれで構いはしない。することは変わらない。 ご苦労、と心から労い──"黒帳"と"宝石姫"を鞘の中に戻してから、左目に意識を集中する。 竜眼が虹色の輝きを放ち、左目から溢れだした人には不可視の魔力糸は、無作法者たちの頭部へと伸びていき、絡みつき、進入する。 侵食、介入、支配。竜の持つ権能による精神掌握──特定の命令を刻み込み遵守させる、"制約(ギアス)"。 魂に魔力の楔を打ち込むこの力は、命に逆らえば耐え難い苦痛を──それに抗い命を破ろうものなら自我を崩壊させる。 そう理不尽なことを刻むつもりはない。 "二度とこの場所に立ち入ること無かれ" それだけだ。この分では上でも何か無法を働くかも知れぬが、それは私の管轄ではない。まだ犯していない罪まで裁くような権限も無い。 ついでに『特区』に関わる記憶の洗浄もしておく。何か得体の知れ無い恐ろしい魔物にでも襲われたと書き換えて、入り口に転がしておけば不都合は有るまい。 大体の人間は、"制約"を刻まれる瞬間や、記憶を操作される苦痛と違和感、不快感に耐えられず気絶する。多分に漏れず、まだ意識があった弓使いと魔術師二人も此処で落ちた。 滞りなく事後の処置も済むかに思えたが──私は、侵入者たちの記憶を洗う中途で妙なものを見た。 「何だ、これは……?」 ──地上。私の知らぬ場所。恐らく何処かの酒場か賭場。薄暗いのと、闇色のフードに隠されて容姿明らかではない何者かが、囁く。 良い儲け話がある、踏破区域内の、議会が隠す場所。臆病な弱い魔物しか居ない。珍しい動植物。宝の山── 垣間見えた光景と会話に、思い出す。逃げようとした際の、大男の台詞。まるで『特区』のことを誰かから聞いたような口ぶりではなかったか? その後もほかに何か有益な情報は無いかと探ったが、最初に見つけた記憶以上に何かわかることはなかった。 近頃、ここに入ってくるものが増えたように思ってはいたが──まさか、裏があるのか。 糸を引くものの存在があると? 誰かが『特区』を狙っている? 仔細は何もわからない。ただ、何かが起きようとしている。 酷く不吉で嫌な予感がした。そうして、こういう時の私の予感は当たることが多い。 どうしよう。……こわい。物理的なものではない、形の無い権謀術数の類からも、私は、皆を守れるのだろうか? 考えると、怖くて震えがとまらなくなりそうだった。だが、駄目だ。周りには皆がいる。皆の前で、私が顔色を変えるところなど見せる訳にはいかない。 恐怖を殺す。仕舞いこむ。今は、事後処理が先だ。皆を待たせてしまっている。 そもそも昼行性の魔物はあまり多くない。寝入り端に叩き起こした挙句に超過労働を強いてしまっただろうことが、少し申し訳なかった。後で労わねば。 私は手早く賊連中の記憶洗浄と書き換えを済ませる。"眼"を使った疲労が一気に圧し掛かり、そのまま眠り込んでしまいそうになったがどうにか踏み止まる。 重い目蓋を必死に開いて、周囲を固めている者たちに指示を出した。 「終わった。──もう安全だ。誰ぞ、この者どもを『丁重』に外まで運んでやれ」 私の声に答えて、包囲を勤めていた何人かの魔物たちが姿を現す。 その中に、何かとよくしてくれる"殺人兎"の青年の姿を見つけると私は少し安堵を覚えた。 「若様、ご無事ですか?」 かけられた声に、眠気と闘いながら頷く。 「大丈夫だ、少し眠くはあるが、何時ものことであるし。……キュルクィリィ。お前も来てくれていたのか。……ミステルが呼んだのか?」 「お顔の色がよろしくない。直ぐに御屋敷の方にお運びしましょう。慟哭の魔女は若様の事後の疲労を見越して私を呼んだのではないかと」 「なに、自力で歩ける。病人扱い、するでない」 「ことの片付きました後位、助けさせては頂けませんか? ……正直見ているだけというのは、少し歯痒くもありました。若様、差し出がましい口を聞きますことお許しあれ。次の機会など無い方が良いのですが、同じような事があれば私の力もお使い下さい」 複雑そうな目をしたキュルクィリィの言葉と同時、他の魔物たちも同じ意思だと伝えるかのように頷いていた。 勘違いや自惚れでなければ、魔剣だけでなく自分たちのことも頼って欲しいと、そう言われているようで──申し訳なくて、うれしかった。 嗚呼、ミステルの言うことは間違いではなかった。誰かが、手を伸ばしてくれる、力を借りることが出来る、というのはとても幸せなことなのだ。 少し弱っている時だからこそ、素直に皆の言葉を受けられる。 『ひとりより、ふたりなのよ』──ならば、それよりもっとたくさんなら、どんなに頼もしく心強くなることだろう。 ここにはいないミステルにも、感謝したい気持ちでいっぱいだった。 皆が傷つくのは絶対に嫌だけれど、知恵を貸して貰うことは問題ないはずだ。寧ろ皆の意見を積極的に貰うべき、手を貸してもらうべきだろう。 父さまに、今日知ったことを報告してから、皆にも相談しよう。ロゼを初め、世長けた者らなら良い助言をくれる筈だし、私ひとりの胸のうちに秘めておくのでは、手遅れになるかもしれぬから。 先程の私の言葉の真意を汲んでくれた魔物たちによって、手やら足やらを引っ張られてずるずると──とても『丁寧』に、賊どもが運び出されていく中。 『特区』に迫りつつある"何か"への不安と恐怖は消えねど、それでもひとりではないことを、皆が居てくれることを噛み締めて。 「すまぬ──否、ありがとう」 ──皆へと、心からの感謝の言葉を口にして微笑んだ所で、ふつりと緊張の糸が途切れ。 迷惑をかけてしまう、倒れてはいけないと自分を叱咤する暇もなく──私の意識は闇に溶けていった。 キュルクィリィは私が気絶する前にかけてくれた言葉を忠実に守ってくれたようで、次に意識が戻った時、私は父さまの巣──説明しそびれていたが二階建ての洋館である──にある、自室の寝台の上に居た。 しかし、まだ半覚醒のような状態だ。意識は半固形のゼリーのように頼りなく、ゆらゆらと浮き沈みを繰り返している。 それにしても"眼"の奥が痛い。"蝕"の時期の痛みとは比べるべくもない弱さだが、それでもじわじわと消えずに苛んでくる。 普段あまり長時間することの無い記憶の覗き見と、六人同時の制約・記憶改竄は思ったよりも負担であったらしい。 "竜蝕期"が近いというのもある。この時期の前はどうしても父さまの"眼"の力を使うことでの消耗が激しくなってしまう。 しかし、それは言い訳だ。屋敷に帰るまで耐えられなかった自分が情けない。 今はまだ身体がだるくて重くて仕方ないが、元気になったら一番に、キュルクィリィに礼を言いにいこう。 その次はミステルだ。ロゼの元で静養している筈の、2番隊の見舞いにも行かなくては。 あれもこれもとしなければいけないことばかり浮かんでくる。身体が思うように動いてくれないのがもどかしい。 ぼうっとしながらも眼をあけようとしては失敗して閉じる。意識が落ちかけるのに眼が痛くて眠りきれない。 ──そんなことを繰り返していた私の頭に何かやさしいものが触れた。 労わり、慈しんでくれる、頭を撫でる手を、私はよく知っている。泣き出したくなるくらいに愛しい、この感触。 「……吾子、いとしいフィロ。……あなたは、少し頑張りすぎですね」 かかる声もやさしい。あたたかい。深みのあるきれいな声が、自分だけに向けられていることがうれしかった。。 大好きな、おれのとうさま。うれしい。うれしい。どうしよう。 大いなる竜の姿ではこの部屋に入れないから、わざわざ人の姿を取って会いに来てくれたのだ。 竜は一度眠ると一週間起きなかったりすることもざらなのだけれど、騒動の所為でどうやら起こしてしまったらしい。 ……ああ、とうさまの眠りの邪魔だけはしたくなかったのに。 夢うつつに、ごめんなさいと呟いたら、 「謝ることは何もありません。吾子はよくやってくれています。……だから、そんなに、頑張らなくていいんですよ」 甘やかすことを言われてしまって、なきたくなった。ふんわりと暖かいものに包み込まれる。とうさまの腕のなか。 世界で一番安全で、どこよりも安らげる場所。とうさまに触れていると、"眼"の痛みも遠のいていく。 そうすると、本格的な眠気がきざしてきた。もう少しこうして、やわらかなしあわせに浸っていたいのに、叶わない。 「……おやすみなさい、フィロスタイン。良い夢を」 さらさらと長く煌く遊色の髪が顔に降りかかる。額に触れる唇は、悪夢払いのおまじない。 もたもたとすがりついたおれの腕を、とうさまは許してくれた。 ──明日からも、これでがんばれる。 頑張らなくていいといってもらえた。それだけで報われる。 おれは頑張らないといけないのだ。ただの人間に過ぎない弱いおれが、みんなに必要とされる「若様」でいるためには。 ねえ、とうさま。おれはこうやってあなたが甘やかしてくれる度、たくさん、たくさん力を貰っているんです。 ここにいることを許して、おれのこと、気にかけてくれる。あなたが、みんなが、だいすきで、いとしくて。 ありがとうより、もっともっと多く、感謝を伝えるにはどうしたらいいんですか。 どうしたら、みんなに、あなたに、お返しができるのですか。 おれは神さまを知らないけれど、おおきなおおいなるものに、世界に、いのる。 まもれますように。 しあわせでありますように。 こどもみたいな蕩けた思考のまま、願いながら眠りに落ちて──目覚めた時にはすっかり元気になっていて。 それでも父上がまだ傍に居てくれたから、私がうれしくて少しだけ泣いてしまったのは、他の皆には絶対いえない。私と父上だけの、秘密だ。
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女性の怒声で周囲の注目を集めてしまった一堂はさすがに居心地が悪く場所を移動した。 つまり、イットーの泊まっている部屋に向かい、総勢4名が顔を突き合わしている状態になったのである。 口火を切ったのは司祭服の女性だった。 彼女はミヒャエルを睨むと言った。 「酒!今すぐ買ってきなさい」 「いきなりお前は何言ってんの?」 呆気にとられミヒャエル。 不機嫌そうに彼女は続ける。 「納得できない。わたしは忙しい中走り回ってるのに、なんでアンタが酒飲んでるの?」 「いやいや、んなこといきなり言われても…」 「んなこと!?」 さらに彼女は柳眉を吊り上げたたみかける。 「もしかして、忘れてるのかな? わたし、今までアンタの仕事で動いてたんですけどー。しかも、アンタの指示で!」 「あ!?」 一瞬しまったという顔のミヒャエル。 彼女はそれを見逃さない。 「ウソ、信じられない! あんなムチャ振りしといて、本気で忘れてたの?」 「いや、忘れてた訳じゃ無いのだ。お前が動いてくれてたのも、うん」 適当な相槌を打つミヒャエル。 それが完全に彼女に火をつけた。 ダンダンと苛立たしげに床を蹴りつけ、言う。 「もう頭キタ!断固として買ってきなさい今すぐに!」 「いや、それとこれとは別じゃね?」 「別じゃねーわよ!大体、何でわたしがアンタの指示で動き回ってんのよ。オカシくない?わたし、アンタの上司よね。管理職なのよ。なんでアンタに顎でこき使われてるの?」 まくしたてるように言う彼女。 ミヒャエルは観念したように俯き、黙り込んだ。 「さっさと買ってきなさい」 「へいへい…」 「急げっての。ハリーアップ!」 ダラダラと買いに行こうとするミヒャエルの背中を蹴りつけ、彼女。 その様子を呆然と見ながら今ひとつ置いてけぼりなマッシグは訪ねた。 「あの…失礼ですがあなたは?」 「あら、そう言えばこちらさんとは初対面ですよね?やだー、おほほほ」 そこで彼女は初めてマッシグの怪訝な表情に気付き、照れ笑いをした。 オバちゃんみたいに手をひらひらする。 「わたし、ミヒャエルの上司で慈愛神付天使管理局統括長をしておりますユキエル・アマミールと言います。よろしく」 にっこりと笑いユキエル。 マッシグは対象的に眉間に皺を造り、渋い顔で黙り込んだ。 「どうかされました?」 「いえ、少々戸惑っております」 「戸惑っている?」 「ええ。私は今まで天使と言う存在は我々とは全く異なる存在だと思っていました。ですが、ミヒャエルにせよ、あなたにせよ、この表現が正しいのかどうかは分かりませんがととても人間臭いと言いますか…」 「平たく言うとイメージと違って驚いたと」 「ええ、まあ…」 言い難そうに頷くマッシグ。 それを見るとユキエルは愉快そうに笑った。 「確かにねー。そりゃ、天使のイメージじゃないかもね」 そして、実にあっけらかんととんでもないことを言う。 彼女の発言にマッシグは固まってしまった。 そんな彼を見てユキエルは続ける。 「でも、それでいいと思う」 「え?」 「そりゃぁ、天使って言うとなんか神秘的と言うか超越した何かみたいなイメージかもしれませんけど、人と同じような感情があって、泣いたり笑ったり怒ったりする。だからこそ人の傷みが分かるんじゃありません?」 にっこりと笑顔でユキエル。 その柔らかな微笑みを目にした瞬間、マッシグの体に電流が走った。 心臓が高鳴り、血圧が上がる。 「そ、そうかも知れませんなぁ」 顔を真っ赤にして、マッシグは慌てて目を伏せた。 何だか目を合わせるのが恥ずかしくなってしまった。 マッシグは戸惑っていた。 俺は一体どうなってしまったんだ? マッシグは混乱した頭の中で考えた。 「どうかしました?」 きょとんとした顔でユキエルが訊ねる。 マッシグは死ぬほど不自然なくらいに上ずった声で答えた。 「い、いえ、何も…大丈夫です」 彼女に声をかけられると心臓が早鐘のようになった。 もしかして、もしかして、これは。 マッシグは自分のみに起きたことに思い当たり動揺した。 マッシグ・ユーティ 、38歳にして初めての恋の予感であった。